セミナー
| 日時 | 2025年12月18日(木)14:00〜16:00 |
|---|---|
| 講師 | 株式会社テーブルクロス 代表取締役CEO 城宝 薫 |
| 進行 | 一般社団法人WE association 理事 株式会社A&CO 代表取締役社長 三竹 麻子 |
「TOKYO女性経営者塾 by NEW」テーマ型セミナー、2025年度2回目のテーマは「『社会課題×テクノロジーで起業する』~利益を上げながら社会課題を解決する起業。エコシステムの創造を目指す~」です。飲食店を予約するだけで途上国の子どもたちに学校給食が届く――そんな画期的なプラットフォームを学生時代に立ち上げ、現在はインバウンド向けグルメプラットフォーム「byFood.com」で日本の食体験を世界に届けている株式会社テーブルクロス代表取締役CEO 城宝薫さんに、社会課題解決とビジネス成長を両立させるCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)経営の実践論についてお話しいただきました。

セミナー冒頭、城宝さんが紹介したのは「予約が入るたびに途上国に給食を届ける」という創業以来のビジネスモデルです。2014年に立教大学経済学部在学中に創業し、現在12期目。資本金3億6000万円、累計資金調達額は約12億円、従業員48名のうちほとんどがグローバルメンバーという体制で、訪日外国人向けグルメプラットフォーム「byFood.com」を運営しています。
「12年間で累計100万食の学校給食を届けることができました。1食あたり約15円で、マラウイなど途上国で活動するNGOと連携して直接子どもたちに届けています。赤十字やユニセフのような大きな団体を通すのではなく、現地で炊き出しをしてくださる団体と直接つながることで、予約が入れば入るほど給食も届く。そういうエコシステムを作っています」
byFood.comは月間約45万人の海外旅行客が閲覧し、Instagram、YouTube、TikTokなど多様なソーシャルメディアを通じて日本の食文化を発信しています。特徴的なのは顧客単価の高さで、1予約あたりの平均売上は約7万円、1人あたりの支払額は3万円を超えます。「日本国内のグルメサイトで1人あたりの集客単価が最も高いサイト」と言われ始めているといいます。
さらに現在、城宝さんが注力しているのが「インバウンド×地方創生」です。
「日本の経済を考えたとき、『外貨を稼ぐ』ことは急務です。47都道府県、47の味があると言ってもおかしくないくらい、地方にはいい食文化が眠っています。それを発掘して旅行客に売れるように開発し、発信して、予約から決済までつなげていく。東京・大阪・京都だけでなく、富山県や三重県など地方都市が外貨を稼げるエコシステムを作りたい。特に欧米豪のお客様は2週間から1ヶ月程度日本に滞在される方が多いので、『もう1都市、もう2都市行きたい』というニーズは確実にあるんです」

城宝さんの原点は、幼少期にインドネシアへの家族旅行で見たストリートチルドレンの姿でした。「自分は幸せなんだ」と気づいたその日から、寄付やボランティアへの関心が芽生えたといいます。そしてもう一つの転機は、高校時代にアメリカで出会った「CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)」という考え方でした。
「2週間ほどアメリカに行かせてもらった時、ホストファミリーに連れられて障害者支援をしている団体を訪問しました。そこで目の当たりにしたのは、『どうやって寄付を集めるか』ではなく、『いかに社会に価値を提供して、その対価としてお金をいただくか』を徹底的に議論している姿でした」
「NPO=寄付やボランティアというイメージで育ってきた私にとって、それはセンセーショナルでした。社会課題解決と利益貢献って一緒にできるんだ、という気づき。これがハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱した『共通価値の創造』、いわゆるCSV経営の根幹だと後で知りました」
祖父が経営者だったこともあり、小さい頃から「将来は社長になりたい」という夢を持っていた城宝さん。「おじいちゃんには『社長はゴールじゃない、自分は何をしたいのか探しなさい』と言われていましたが、社長になりたいという夢は疑わずに育ってきました」。社会課題に取り組みながら持続可能なビジネスを作るという方向性が、高校時代に定まったといいます。

順調に見えるキャリアですが、2019年に大きな転機が訪れました。もともとは国内向けの飲食店検索アプリ「テーブルクロス」を運営していた城宝さんは、「このままでは日本の飲食店は生き残れない。外貨を稼がなければ」と気づき、2018年に訪日外国人向けサービスTokyo by Foodを事業譲渡で取得。2019年にはインバウンド向けに大規模な投資を行い、翌年の東京オリンピックに向けて勝負に出ました。
「2019年にはリリースしたかった。2015年頃から自分の中でコミットしていたんです。来年オリンピックがあって、世界中からお客様が入ってくるタイミングだから、何がなんでも2019年にはインバウンドをやるべきだと。大規模な投資をしてまでリリースして2019年を迎えたんですけど、まさかのコロナ。これは本当に大変でしたね」
世界中の旅行客が利用するプラットフォームは、売上がゼロに。
「コロナが始まって3ヶ月でオフィスを手放し、人件費以外のコストを全部止め、サーバーも一度停止。身軽にして生き残れる体制を最優先で作りました。幸い、農林水産省のインバウンドプロモーション受託事業があり、動画制作や地域商品の磨き上げ、受け入れ環境整備などで約1億円の売上を確保。15名程度のメンバーで利益を残せる体制を維持しました」
「お客さんが一人もいない時期に、裏側の決済システムや予約管理機能、ユーザー体験の向上など、徹底的に開発を続けました。全くお客さんが使わないのにシステムを作り続けるのは結構大変なんですけど、だからこそインバウンドが戻ってきた2023年、私たちはロケットスタートを切ることができたんです」

後半のトークショーでは、進行の三竹さんから「仕事と家庭の両立」について質問が投げかけられました。城宝さんはこの3年で3人のお子さんを出産。成長期の会社を経営しながらの子育ては、想像を超える大変さがあったといいます。
「1日朝始まってから夕方保育園のお迎えに行くまで、トイレに行く時間もないくらいカツカツのスケジュールをこなしています。移動が間に合わなくて、公園からパソコンを開いてオンラインで打ち合わせに入り、そのままお迎えに行くこともありました」
50名規模の組織を回し、資金調達も含めて事業を成長させるには、月200時間程度の稼働が必要。そのために城宝さんが実践しているのは「徹底的な無駄の排除」です。
「日常生活の全ての無駄を洗い出しました。ゴミ箱への動線1つとっても、ゴミ袋をこっちから取りに行ってこっちに行くだけで30秒ロスする。それを1週間に何回やると1分、1年間で何分の時間が作れるんだろうと計算しました。メールの定型文も全部登録して、『お世話になっております、テーブルクロスの城宝です』まで一発で入力できるようにしています。1通あたり15秒の節約でも、1日10通なら150秒。毎日やれば1ヶ月でかなりの時間になります」
洗濯は乾燥機付きの洗濯機、掃除はシッターさんや外注に任せる。「私じゃなくていいこと」は全て手放し、仕事と子どもとの時間だけにフルコミットする生き方を選んでいるそう。また、睡眠時間の確保を最優先し、授乳も早々にやめる決断をしたといいます。
「いろんな人にいろんなことを言われました。でも、仕事と子どもの両方に100%で頑張りたいと思った時、睡眠時間を確保することが私には一番大事だった。寝られないとイライラするし、判断もできなくなる。これは私にとってすごくいい決断だったと今は思っています」
2人目の出産時には前置胎盤で1リットルの出血があり、40日間の入院を経験。資金調達3億円を進めていたタイミングで大きな意思決定が一切できなくなり、「周りに頼りまくった」と振り返ります。3人目の出産後は、病院の病棟から5日間の入院期間中にオンライン会議に参加していたというエピソードも。
「生後4か月の生まれたての子どもを2週間ほど置いて、ロサンゼルス出張に行くこともありました。うちのクライアントの40%がアメリカ人なので、海外出張は必要なんです。それを受け入れてくれる両家の両親、旦那さんがいるかどうか。女性経営者にとって、家族の理解は本当に1番大事なテーマだと思います」

学生起業から始まり、現在は累計12億円以上を調達している城宝さん。会場からは「怖くなかったのですか?」「VCを入れることへの抵抗はなかったのですか?」といった質問が相次ぎました。
「学生だったので、『知識がない』ことが逆に武器でした。怖いものを知らないからこそ、とりあえず走れた。競合がどれだけ大きいかも知らずに始めたからこそ、今があると思います」
最初の資金調達は、高校の先生、父の知り合い、母など周囲の人たちから集めた約2500万円。そこに日本政策金融公庫が「学生で初めて」融資を決定し、信用組合や信用金庫も続いて、合計約5000万円。しかし、そのお金はすぐになくなってしまったといいます。
「銀行口座の残高が600円になったこともあります。自分の資産を全部入れ込んで、本当にダメかもと思った。でも当時は失うものが何もなかった。学生で、実家に住んでいて、毎月払っているのは携帯代くらい。怖いものがない環境だったんです」
その後、VCからの出資も受けましたが、役員会は「炎上しまくり」だったといいます。「城宝さんって本当に経営のセンスのかけらもないですね」と言われることもあり、大学の卒業式の思い出は「役員会が炎上していたこと」だそうです。
「VCは会社名で選ぶのではなく、担当者で選ぶべきだと思います。これから3年、5年の絵を一緒に描けるか、思いを共有できるか。担当者が変わると約束も変わっていく。本当に担当者ありきなんだなと感じています」

最後に、今後の展望が語られました。2023年にはJTBなど大手からの資金調達を完了し、さらなる成長フェーズに入っています。
「次のステージはグローバルです。ユーザーを獲得する段階で、戦う相手は海外の会社になります。うちが12億円調達したと言っても、競合は100億円、1000億円規模の調達をしているグローバルプレイヤーです。桁が1つどころではなく違う」
世界では年間14億人が旅行をしており、その人たちが「タイではなく、ベトナムや韓国ではなく、日本に来る」という選択をするかどうかが勝負になると城宝さん。真の富裕層が1週間で2000万円の予算を持って来日しても、ミシュランの店を1日貸し切って200万円程度。タイのように城を貸し切るような国家レベルのコンテンツ開発も課題だと城宝さんは指摘します。
「5年以内に年間流通100億円を達成するプラットフォームに成長させたい。100億円の流通が実現すれば、それだけの途上国への給食支援も届くし、地方への貢献もさらに大きくなります。日本中にインバウンドの恩恵を行き渡らせ、その先でさらに多くの給食を世界の子どもたちに届けていきたいです」
利益と社会貢献を両立させる「byFoodエコシステム」。城宝さんは、学生時代の情熱をそのままに、その世界観を着実に広げ続けています。

1993年生まれ、立教大学経済学部卒業後、2014年に同社を創業。大学在学中に社会貢献とビジネスの両立に関心を抱き、1予約につき10食の途上国への学校給食支援のグルメプラットフォームを立ち上げる。現在は、訪日外国人向けグルメプラットフォーム「byFood.com」を運営。Forbes Under 30 Social Impact受賞。